東京高等裁判所 昭和36年(行ナ)126号 判決
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〔判決理由〕(本件審決を取り消すべき事由の有無について)
二 原告は、本件審決は、その主張の三点において判断を誤つた違法のものである旨主張するが右主張は、以下に説示するとおり理由がないものといわざるをえない。
(一) 溶融原料と焼粉との差異について
本願発明における溶融原料が特に限定されておらず、たとえば、バリウム、カルシウム、マグネシウム、ストロンチウム等の酸化物ないし炭酸塩等のアルカリ分を含有しない単純な化合物であればよいことは、当事者間に争いがなく、かつ<証拠>によると、本願発明においては叙上のような溶融原料が他の素地成分と相まつてムライトだけの生成鉱物と残余は均質なマトリックス融成素体となるものであること及び原告側の依嘱により引用例の場合と同一の材料(ただし、フロリダカオリンに代えてこれと組成の類似する朝鮮カオリン及び香港カオリンを用いる。)を用いて焼成した(ただし、焼成の温度は摂氏約一四〇〇度、焼成時間約三〇分程度と推察される。)試験的製品が石灰長石(又は灰長石、アルバイト)、ストロンチウム長石等の高融点のアルカリ土類長石質鉱物を生成し、これをカオリン、珪砂末と調合して焼成しても、右アルカリ土類長石質鉱物が残存して不均質な素地となつたことを認めることができ、これに反する証拠はない。他方<書証>によると原告の主張するように、引用例における焼粉がフロリダカオリン六〇部並びにマグネシウム、ストロンチウム及びバリウムの炭酸塩の一〇部ずつから成る混合物を焼成したものであることを認めることができる。しかしながら、同時に、右<書証>によると、引用例の方法による製品について、典型的な抵抗体磁器心のX線回析縞は石英、クリストバル石、ムライト、アノーサイトに似た結晶及びマグネシウムイオンをバリウムイオンで置換したコージライトの五つの結晶質相を示すが、長い焼成時間と高温度は、これら結晶相すべてを、ムライトを除いて、消失させる傾向があるのが常であること並びにムライトとガラス生成の傾向は望ましいものと考えられていることを認定することができ、この認定を左右する証拠はない。そうすると、引用例の方法による試験的製品について前記認定のような事実があつたとしても、引用例のものにおいても、その加熱温度と加熱時間とを適当に選択することにより、本願の方法による抵抗素体と同様、ムライトを除いて他のガラス相を生成することがあり得ることが推認される。
したがつて、引用例における焼粉は、他の素地成分と相まつて、ムライト及びガラス相を生成することがあり得る点において、本願方法における溶融原料が他の素地成分と相まつてムライトをガラス相中に生成させるものであることと軌を一にするものであるということができる。換言すれば、本願方法における溶融原料が無アルカリの単純化合物であるのに対し、引用例の焼粉が焼成による鉱物を含む点において差異はあるが、両者は、いずれも抵抗素体の磁器としてムライトだけを生成せしめ他はガラス相であるようにすることを可能とする磁器化用素材である点において格別の相違があるということはできない。したがつて、この点に関し審決が違法があるとはなしえない。
(二) 蛙目粘土とカオリンとが均等物であるかどうかについて
前掲証人の証言によれば、
蛙目粘土は、カオリンとその成分が少し違うこと、
均質なガラス質を作るために陶磁器業者が蛙目粘土の使用を欲すること、
本願発明の方法においても、蛙目粘土を三〇部近く使用しており、それが大事な役目を果すものであることは陶磁器業界の常識的な考えであること
を認めうべく、これらの事実によれば、蛙目粘土がガラス質をよく作るものであり、これをカオリンと併用することは陶磁器業界における慣用技術であり、その使用による効果も当業者の容易に予測しうるものであることが明らかであるということができ、これを左右するに足る証拠はない。しかして、蛙目粘土が可塑性賦助耐火原料として周知のものであること及び本願発明において蛙目粘土を使用するのは粘性(可塑性)賦助にあることは、原告の認めて争わないところであり、しかも、蛙目粘土とカリオリンとを併用するものがカオリン単独使用のものに比し、常にムライトの生成が良好であるとすることもできないことは、<書証>により、これを窺知することができるから、両者を均等物とみることが適当かどうかはともかくとして、本件審決が「蛙目粘土を成分組成のほぼ等しいカオリンの一部に代えて使用することに発明の存在を認めることはできない」旨判断したことは、違法ということはできない」旨判断したことは、違法ということはできない。
(三) 本願発明の独特の作用効果について
<書証>本願発明は、前記のような構成要件からなるものであることに基づき、原告主張のとおり、その方法による製品である抵抗素体の抵抗値の変化が極めて小であり、かつ、素体表面に蒸着した炭素被膜の断線をよく抑止しうるものであることを認めることができるが、このような効果が引用例のものに比して、とくに顕著であることを認めるに足る適確な証拠はないから、本件審決がこれを看過したものとすることはできない。いま、この点について詳説するに、引用例記載のものにおいて抵抗体素地中のガラス相中にアルカリ金属イオンが存在しないようにすることが望ましいことが明らかであること、引用例記載の抵抗体素地の配合原料がアルカリ金属イオンの混入を避けるためのものの配合組成となつていること及び本願発明においても、アルカリ金属イオンの混入を避けようとするものであることは、原告の自認するところであるから、本願発明の効果なるものも、必ずしも引用例記載のものに比較して独特のものとすることはできない<中略>
(むすび)
三 叙上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消を求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかない。よつて、これを棄却する。(服部高顕 三宅正雄 石沢健)